「うつ病」で障害年金を申請する前に、知ってほしい3つの現実――“病気を説明すること”は、こんなにも難しい

シリーズ「障害年金請求への道」はちょっとお休みといたしまして、今回からは少し角度を変えてお届けしたいと思います。

はじめに

「うつ病でも、障害年金ってもらえるんですか?」
私が受ける相談の中で、相当多い質問です。

答えはもちろん「もらえる可能性があります」。
けれど、実際の現場を知る社労士としては、もうひと言つけ加えたい。

「でも、簡単ではありません。」

うつ病は“見えない障害”であり、申請には独特の難しさがあります。
ここでは、現場でたくさんの相談を受けてきた経験から、
申請前に必ず知ってほしい3つの現実をお伝えします。


第1の現実:診断書だけでは“伝わらない”

障害年金の審査では、医師が書く**「診断書」**が最も重要な書類です。
しかし実際には、「診断書を出したのに不支給だった」という人が少なくありません。

その理由は――
診断書が、あなたの生活の“現実”を反映していないことが多いからです。

医師は、限られた診察時間で「治療の経過」を中心に記録します。
でも年金審査で見たいのは、「日常生活がどれほど成り立たないか」。
このズレが、最大の落とし穴です。

“病名”よりも、“生活への影響”が問われる。
これが、障害年金の世界です。


第2の現実:“日常生活能力”がすべてを左右する

障害年金では、「日常生活能力」という評価項目があります。
これは、次のような7項目で構成されています。

  • 適切な食事
  • 身辺の清潔保持
  • 金銭管理と買い物
  • 通院と服薬
  • 他人との意思伝達及び対人関係
  • 身辺の安全保持及び危機対応
  • 社会性

つまり、審査で見られているのは“症状”ではなく、“生活”。

たとえ働いていても、
「職場の配慮がないと続けられない」「家事や人づき合いが難しい」
――そんな状態なら、支給される可能性があります。

逆に、どんなに苦しくても「普通に生活できている」と書かれてしまえば、
制度上は“軽い”と判断されてしまうのです。


第3の現実:申請書を“本人が書けない”ことがある

うつ病の申請で最大の壁は、「書けない」こと

申請書(病歴・就労状況等申立書)には、発症から現在までの経過を自分で書く欄があります。
でも、うつ状態では集中力や判断力が落ち、文章をまとめることがとても難しい。

それでも、制度上は「本人が提出したこと」が求められます。ここに、多くの人がつまずきます。

私が関わった方の中にも、
「申請書を書こうとして涙が止まらなかった」「過去を思い出すのが苦しかった」
という人がたくさんいました。

だからこそ、社労士や家族が“代筆”という形で支える意味があるのです。
制度は冷たく見えても、現場には「支える人の手」がちゃんとある。


それでも、申請していい

「自分はまだ軽いから」「もっと重い人がもらうべき」
そう言って申請をためらう人も多いです。

けれど、私はこう思います。

「申請することは、戦うことではなく、“今の自分を正しく伝える”こと。」

うつ病の申請は、病気を理解してもらうための記録の積み重ねです。
正直に書くこと、伝えきれない部分を補うこと。
それだけで、制度はちゃんと応えてくれます。


まとめ

  • 診断書だけでは伝わらない
  • 日常生活の困難さこそが判断基準
  • 書けない人を支える仕組みがある

障害年金は、冷たい制度ではありません。
“生活を支える仕組み”として、あなたの現実を受け止める器です。

もし今、申請を迷っているなら、
どうか「諦める」前に、「話す」ことから始めてみてください。

制度の中に、きっとあなたの居場所があります。

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