社会保険審査会裁決例(障害年金支給停止)より⑥

再審査請求に基づき社会保険審査会で裁決され、障害年金支給停止が覆った例です。

事案概要

障害基礎年金2級を受給していた者が、障害状態確認届(診断書)の結果によって、3級相当(つまり障害基礎年金としての支給は停止となる)と判断され、かつ、障害状態確認届の提出時期を保険者側から誤って伝えられたため、結果として、2年分の受領した年金を返還するよう求められたことを不服としたもの

経緯とポイント

経緯と事実認定

1 次回障害状態確認届の提出時期の年金側の説明が誤っていた

 ・前回は「5年」であったし、今回も「5年」と通知されていた
 ・しかし、それは間違いで実際は「3年」だったとの年金側からの連絡あり
  さらに、現在の状況と本来の診断書提出時期(2年前)と2通、診断書を提出してほしいとの要請あり(さらに、他にも追加で求められている)

2 結果

結果として、2年前の診断書の内容では3級相当となり、2年にわたる支払い分の返納まで求められてしまった

3 審査会側の意見

・原処分のように過去に遡って障害基礎年金の支給を停止するということは、結果として、障害基礎年金の支給という授益的処分を遡及して取り消すことに等しいものであり、それが既に支給された年金の返納に結び付くことを考えれば、当該処分の相手方に著しい損害を与えるものであることを考慮しなければならない。

・不適切と思われる処分がなされ、その状態が続いていることについて、被保険者の側に責に帰すべき事由がなく、一方保険者(国)の側には注意義務違反やこれに準ずるような帰責事由があり、当該処分により形成された法的状態の安定性、当該処分の相手方の信頼保護等の法益と、不適切な処分や状態を維持することの公益上の不利益とを比較衡量して、前者が後者を大きく上回るような場合には、社会保険行政にも適用される信義則の法理から、保険者により是正の措置が、例外的に制限される場合がないわけではない。

・請求人には何らの落ち度も認められず、障害基礎年金の支給を継続して受けられるとの信頼のもとに、その支給を受けていたもの

・保険者側の一方的な過誤

・過去の障害の状態についての診断書の提出を求めたり、現症の診断書で障害の状態が改善していると認められたために、その前年、前々年の診断書の提出を求めるに至ったとするなど、自らの誤りを糊塗しようとする保険者の対応は、きわめて遺憾

・障害の状態が変わったことを理由とする障害基礎年金の支給停止は、指定日の翌日から起算して3か月を経過した日の属する月分から行うとする運用からすれば、原処分はこのような運用にも明らかに反するものと認められ、すでに経過した過去の日をもって遡って指定日とすることも考えられない。

・本件のような支給停止が一般的になさるれるとすれば、受給権者は、障害基礎年金の支給を受けても、将来遡って支給停止となり、その返納を求められることがありうることを慮って、きわめて不安定な状態に置かれることになる

・原処分は、行政実務の分野においても適用されると解される信義則の法理に照らして、到底是認することはできないといわざるを得ない

・保険者は、自らの過誤を取り繕うために体裁を整えることを優先し、その結果請求人に及ぼすであろう影響や、その心情に思いを致すことなく原処分を行い、しかも、請求人から不服が申立てられた後も、これを改めなかったものであって、厳しく非難されなければならないと考える

上記記載内容のように、結果として審査会は、非常に厳しい姿勢で、保険者(国)の姿勢や決定を批判し、支給停止を取り消す判断を行っている

ポイント

1 5年後と言われその通り診断書を出したら、実は2年前でしたからその時の診断書を出してください、さらに〇〇という理由だから、追加でこれもこれも出してください、という保険者側の姿勢を、おそらく不信に思い、あげくのはてには、支給停止だから2年分返金してください、というある種理不尽な決定について、不服申立てをしっかり行ったこと

2 想像以上に審査会の姿勢が保険者(国)に対し厳しいものであり、結果として請求人の申立てが全面的に認められたこと

3 おそらくこうした判断は、身内である社会保険審査官はまずできないため、再審査請求を行い外部の人間も委員として入っている社会保険審査会の審議に委ねる意義を改めて感じさせられる事案であること

まとめ

この事案は、上記のとおりかなり特殊な内容になっています。例えば誤案内により受給者側に不利益があったとしても、争った結果は割とケースバイケースであり、受給者側の主張が常に通るわけではありません。しかし、今回の事案は、請求人側に全く落ち度がなく、かつ障害年金の受給というある種生活権そのものの話であり、その生活権を脅かすような返還命令は、信義則に反するという結論が導き出されています。

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